2024年10月28日 月曜日
10月20日(日)に、京都大学の研究者に学ぶ講座「-iPS細胞講座-」を開催しました。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から2名の講師が来所し、直接指導していただきました。県内の高校生35名(6校)が参加し、iPS細胞の観察や再生医療に関する課題解決に向けての演習に取り組みました。プログラムは次の5つに分けて実施しました。
①基礎知識を学ぼう ~ゲームボードで「発生」「分化」「細胞」 について学ぶ~
研究者の生活と細胞の成長過程を元にしたすごろくゲームをとおし、グループのアイスブレイクと幹細胞に関する基礎知識の学習を併せて行いました。ゲームの中では研究者ならではの出来事が起きたり、専門用語が出てきたりするので、楽しみながら研究者の生活の様子を知ることができました。さらに、すべての細胞は内胚葉、外胚葉、中胚葉から様々な器官の細胞に分化していくことなどの基礎知識を学ぶこともできました。参加した生徒は、「多能性誘導因子」「コンタミ」など、初めて聞く言葉の意味やはたらきについて質問していました。
②細胞を扱う実験をしてみよう ~繊維状培養肉づくりの実験~
最初に、培養肉の歴史とiPS細胞と培養肉で共通して持っている可能性や課題について学びました。次に、実験に入る前に、使用する薬品類の説明や実験の原理を学び、少量の液体を正確に量り取るマイクロピペットの使い方を練習しました。実験では、培養容器にリン酸緩衝生理食塩水をかけて細胞を洗浄した後に、底に固着した細胞を別の薬品で剥がしました。その後、遠心分離機にかけ細胞をマイクロチューブの底に集めて、不要となった上澄み液を吸い取りました。最後に、マイクロチューブにコラーゲン酸性溶液を入れ、よく撹拌してからゲル化用のリン酸緩衝生理食塩水に入れ、繊維状の培養肉を形成しました。生徒たちは、試料が乾燥したり細菌に感染したりしないよう、細心の注意を払いながら実験しないといけないことを知り、細胞を培養することの大変さを実感していました。
③細胞を観察しよう ~ヒト iPS 細胞などを観察する~
講師の方が用意した標本化された4つの細胞(ヒトiPS細胞、ヒトiPS細胞由来の神経細胞、ヒトiPS細胞由来の心臓の細胞、ヒトiPS細胞由来の肝臓の細胞)をタブレット付き顕微鏡で観察しました。それぞれの細胞の特徴を言葉で表し比較することで、4つの細胞がそれぞれどの細胞なのかを推論する演習を行いました。生徒たちは、細胞の集まり具合や形と器官のはたらきを関係づけ、話し合いながら答えを考えていました。
④最先端を知ろう ~最先端の研究「iPS細胞の今」~
生きたiPS細胞をサイエンスラボにある蛍光顕微鏡を用いて観察しながら、講師の椎名先生が現在行っているCAR-T細胞の研究について講義を聴きました。免疫細胞の1つであるT細胞は、がん細胞などの異物を見つけて攻撃します。CAR-T細胞は、iPS細胞からT細胞を作る際、CAR(キメラ抗原受容体)という特殊な受容体を追加することで、より効率的にがん細胞を攻撃できるようにしたものです。実際にCAR-T細胞が、がん細胞を攻撃している様子を動画で見せていただきました。
⑤考えよう ~グループワーク「答えの出ていない課題に挑戦」~
「iPS 細胞やES細胞を応用した『新しい医療』や最新技術を用いた新たなサービスの開発が進んでいます。こうしたなか、幹細胞の研究や応用はどうあるべきでしょうか?①どのような課題があるでしょうか?②どうすれば解決できるでしょうか?あるいは、「解決する」とはどういう状況でしょうか」という課題に挑戦しました。グループワークツールを使い、生徒たちがそれぞれ課題に取り組みました。課題をとおして、医療技術を普及させるために解決しなければならない問題と、その問題との向き合い方について学ぶことができました。
最後は、質問会を行いました。iPS細胞の実用化や、研究の内容などについて、積極的に質問していました。
生徒たちからは、「iPS細胞についても、研究者という職についてもたくさんのことが知れておもしろかったです。私は医学系に進みたいと思っているので、これから高校の勉強も、大学での生活も頑張っていきたいと思います。医学系の興味がさらに湧いて、モチベーションになりました。」「iPS細胞のことについて、様々な活動や視点をとおして知ることができました。また、ディスカッションの時間に新たな考えを知れたので、とても興味が深まりました。iPS細胞は再生医療などの分野での応用が期待されていますが、逆に発展しすぎても世の中に新たな問題をもたらすことを考えると、多面的に物事を考えないといけないなと思いました。」「バイオテクノロジーには論理的思考が必要だということに驚きました。生物学の可能性の大きさに圧倒されました。今後も生物の勉強も頑張りたい、さらに現在行っている研究にもっと真摯に取り組んでいきたいと感じました。」などの感想が聞かれました。