2026年3月17日 火曜日 実験講座
令和8年3月8日(日)9:00~16:30 於:福井県教育総合研究所 サイエンスラボ
第2回わくわく!アドバンス実験講座を開催しました。この講座は、理科をより深く学びたい、あるいは実験に挑戦したい高校生を対象とし、科学的思考力と実験技能の向上を目的としています。今回は福井県内から10校39名の高校生が参加し、物理・化学・生物の各講座に分かれて活動しました。
【物理講座】特性のある素子を用いた電気回路を作ろう
特性のある素子について、実験による測定結果の分析をとおしてその特徴をつかみ、それらの特徴を生かした電気回路を作成しました。
[実験1]サーミスターの特性を測定
NTCサーミスターとPTCサーミスターのそれぞれについて、温度と抵抗値の関係を調べました。NTCサーミスターについては、温度が上昇するにつれて緩やかに抵抗値が減少することがわかりました。PTCサーミスターについては、温度が上昇するにつれて、あまり変化のなかった抵抗値が、ある温度を境に急激に増加するようになることがわかりました。また、抵抗値の変化量はPTCサーミスターのほうが100倍以上あることもわかりました。
[実験2]高温状態になったときに音が鳴る電気回路の作成
電池、抵抗、サーミスター、電子メロディを用いて、高温状態になったときに音が鳴る電気回路を自分たちで考えて作成しました。どのような回路を組めば、実験1でつかんだサーミスターの特性を生かして目的が達成できるかをグループメンバーと議論し、何度も失敗を繰り返しながら、試行錯誤しました。最終的に正解の回路を作成できた時には、大きな達成感を味わうことができました。この実験をとおして、火災警報器のような特徴の電気回路を自分たちでも作れることがわかりました。
[実験3]LEDの特性を測定
LEDについて、電圧と電流の関係を調べました。電圧がある特定の値以上になると、それまでほとんど流れなかった電流値が急激に増加しLEDが点灯するようになることがわかりました。
[実験4]CdSセルの特性を測定
CdSセルについて、明るさと抵抗値の関係を調べました。部屋が明るい時に比べ、部屋が暗い時には抵抗値が30倍ほどになり、その抵抗値は50kΩ程度に達することがわかりました。
[実験5]部屋が暗くなったときにLEDが光る電気回路の作成
電池、抵抗、LED、CdSセルを用いて、部屋が暗くなったときにLEDが光る電気回路を自分たちで考えて作成しました。実験2で学んだことも生かし、トライ&エラーを繰り返しながら、正解の回路に近づけていきました。CdSセルは5個並列に接続する必要があり、並列接続の合成抵抗の特徴を再確認することもできました。この実験をとおして、センサーライトのような特徴の電気回路を自分たちでも作れることがわかりました。
[実験6]コイルを用いた無線送電回路の作成
ファンクションジェネレータからの交流信号を電源として、コイルを用いた無線送電の電気回路を作成しました。送電されたかをLEDで確認し、電源につながっていない部分の回路でLEDが点灯したときには思わず歓声が上がりました。
生徒の感想
『初めての経験で難しかったが、実験の過程を理解できた際に達成感を感じ、楽しかった。』
『実験の工程が多くて、同じ班の人たちと一緒に考えながらやり方を議論し合うのが楽しかった。』
『今後の進路で活かせそうな知識が多く、とても良い学びになった。』
『電気回路の作り方の考え方がわかって、アドバンス実験講座に来てよかった。』
【化学講座】 香りの化学
前半は、有機化学の基礎講義にはじまり、酢酸と5種類のアルコールを用いたエステル合成実験を行いました。その後、香り分子が嗅覚受容体とどのように相互作用するのかを学びました。
午後は4種類の試薬を用いて香りの持続性や印象の変化を官能性評価し、さらに温度による香りの違いを分析。データ整理と考察を通じて、香りの特性を多面的に探究しました。
有機化学は高校3年生で扱う分野のため、まずは講義形式で基本事項を確認しました。炭素を含む有機化合物は無機化合物と比べて種類が非常に多く、その多様性に驚かされました。同じ分子式でも構造により性質が異なる「異性体」にも触れ、沸点の大きな違いや、有害性を示す例など、興味深い事例を学びました。
最後に、実験で扱うエステル合成反応について理解を深め、これから行う操作のイメージを持つことができました。
アルコールとカルボン酸を班ごとに組み合わせ、5種類のエステルを合成しました。反応前の試薬には思わず鼻をそむけたくなるにおいのものもありましたが、生成したエステルはまったく異なる香りを示しました。バナナを使っていないにもかかわらずバナナ様の香りになるなど、反応で生じる“別の化合物”が特徴的な香りをもつことがわかります。
同じ香りでも班員によって印象が異なり、感じ方の違いへの興味が広がる実験となりました。
香りの認識メカニズムは、2004年のノーベル生理学・医学賞につながった研究で明らかになりました。香りを感じる際には「嗅覚受容体」というタンパク質が働き、特定の分子が受容体を阻害すると香りの感じ方が弱まることがあります。
また、香りの印象が人によって異なるのは、持っている嗅覚受容体の遺伝子が少しずつ異なるためであることも学び、教室内の意見のばらつきにも納得がいきました。
実際の研究論文から引用したグラフの読み取りにも挑戦し、英語論文でもポイントを押さえれば理解できることを実感しました。話題は生物分野の「セントラルドグマ」にも広がり、化学と生物を横断して理解を深める講義となりました。
4種類の試薬を量り取り、質量の減少と官能性評価を時間ごとに記録し、それぞれを折れ線グラフにまとめました。香りが短時間で弱まるものもあれば、長く残るものもあり、物質ごとの特徴が明確にあらわれました。
また、自分にはほぼ香りがしないと感じたサンプルでも、別の人にはまだ香りがあると評価されることがあり、官能性評価のグラフも人によって大きく異なりました。講義で学んだ通り、嗅覚受容体の遺伝的違いによる個人差を実験を通して実感できました。
実験2と同じ4種類の試薬を冷却しながら測定し、質量の変化(=揮発量)と官能性評価の経時変化をグラフ化しました。温度が低いほど揮発しにくくなるため、質量には一定の傾向が見られましたが、官能性評価は参加者によって大きなばらつきが見られました。温度による物質の挙動と、人の感覚の曖昧さの双方を体感できる実験となりました。
4種類の試薬が実際にどのような物質であったのかを確認すると、予想外の正体に驚かされました。本来においを持たない物質でも、「試薬」と言われると香りがするように思い込んでしまうことがあり、人の感覚のあいまいさを実感しました。
香水の世界では、揮発のしやすさから香りが大きくトップ・ミドル・ベースの3タイプに分類されます。今回扱った試薬は、果たしてどのタイプに相当したのでしょうか。実験で得たデータをもとに考察する良い機会となりました。
生徒の感想
『香りに興味があり、今回の講座で学んだことは将来の行き先を決める上ですごく参考になり、ほんとうに参加して良かったと思いました。講義の中で生物や化学の知識で自分が学んだことのあるものがこういう形で出てくるんだと知り、面白かったし勉強になりました。実験も実際にやってみてこういうものなのかと実感でき、大学でもぜひ香りの研究をしていきたいと思いました。』
『人がどのようにして匂いを感じとるのかが知れました。タンパク質でできた受容体があると知って生物基礎で習った仕組みと似てるなと思いました。また官能性評価を班の子たちと比べたとき人によって全然違っていたり、匂いの感じ方が人と違ったりするのはどうしてだろうと思っていたけど、嗅覚受容体が人によって異なるDNAからできてるからだと知れて、なるほどと思いました。
化学の講座だけど、生物の要素が絡んでいて、色んな教科はつながっているんだと思いましまた。今回の実験が普段できないような実験ができてとても貴重な経験になりました。次回も興味のある内容だったら参加しようと思います。』
『最後の実験でやったものの中には水も含まれていて最初から水だと知っていれば無臭なはずなのにそのときは本当に匂いがしていたことがすごく不思議で面白いと思いました。匂いについてここまで深く授業ですることはないので今回この講座を受けることができてすごくよかったなと改めて思いました。この講座を受ける前より研究職や化学に興味が湧きました。ありがとうございました!』
【生物講座】DNA鑑定で犯人捜し
生物講座では、アガロースゲル電気泳動法を用いて、「犯行現場に残されたDNAを鑑定し、容疑者5人の中から犯人を探し出す」という課題に取り組みました。実験を行う前に、DNAに関する基礎知識を学び、いよいよ実験がスタートしました。
[実験1]制限酵素によるサンプルDNAの切断
犯行現場に残されたDNAと5人の容疑者のDNAを、DNA専用のハサミである制限酵素を用いて切断しました。とはいえ、その現象を目で見ることはできないため、ほんの一滴のDNAがしっかり制限酵素と混ざるかは想像するしかありません。それでも遠心分離機で沈殿させ、37℃の恒温槽でしっかり反応させました。
[実験2]マイクロピペッターの使い方とアガロースゲルの作成
多くの生徒がマイクロピペッターの操作に慣れていないため色をつけた水で練習し、正確に定量する技能を身につけた上で試料の混合や分注などを行いました。また、アガロースをダマやムラができないように攪拌しながら加熱・溶解し、ゲルトレイに流し込んでコームを差し込み、電気泳動で使うアガロースゲルを自分たちで作成しました。
[グループワーク1]プラスミド地図を見ながら生じる断片長を推測する
今回用いたDNAは、実はヒト由来ではなく、細菌が持つ小型環状DNA(プラスミド)に、遺伝子組み換え技術で既知のDNAを組み込んだものをサンプルDNAとして利用しました。アガロースゲルが固化する時間を利用して、そのプラスミド地図を見ながら、どこでいくつに切断され、どれだけの長さのものが生じるかを事前に予想しました。またその結果を電気泳動の結果得られるバンド図として作成しました。計算機をたたきながら、様々な長さの断片を長い順に並べる作業は、なかなか難解で苦労していました。
[実験3]アプライの練習
午後からは予備のアガロースゲルを用いて、アガロースゲルのわずかなくぼみに、マイクロピペッターを用いてDNAを流し込む(以下アプライ)練習を行いました。始めは手が震えて狙ったところに入れるのが難しかったですが、徐々に上達して、自信をもって本番に臨めるようになりました。
[実験4]アプライと電気泳動
本番では犯行現場に残されたDNAと5人の容疑者のDNAの他に、DNA断片の「ものさし」となるDNAマーカーをまずアプライしました。その後、6種類のDNAもアプライし、いよいよ電気泳動装置にセットして泳動をスタートしました。DNAの持つリン酸がマイナスを帯びているため、電気を流すことでプラス方向に移動していきます。制限酵素で切断された様々な長さのDNAは、アガロースゲル内部を移動する際、移動速度に差が生じており、長い断片ほど移動距離が短くなります。個人間のDNAは制限酵素で切断される個所が異なるため、制限酵素を利用した電気泳動では、
個人が特定できることになります。泳動の待ち時間では、DNAマーカーの断片長と移動距離から標準曲線を作成し、その標準曲線を用いればDNA断片の移動距離からおおよその断片長が求められることを学びました。
[グループワーク2]標準曲線を作成し断片の長さを求める
電気泳動も終わり、取り出したアガロースゲルを慎重に染色・脱色すると、すべての班でくっきりとDNA断片のバンドが見えてきました。犯行現場と全く同じバンドが現れ、犯人が明らかになった瞬間です。その後、マーカーのバンドをもとに標準曲線を作成して、標準曲線からDNA断片の長さを求めていきました。午前中のワークで行ったDNA断片の理論値と比較し、ほぼすべての班でわずかな誤差のデータを得ることができました。
[グループワーク3]DNA鑑定のメリット・デメリットと発表
最後にDNA鑑定や遺伝子検査の可能性やメリット・デメリットをグループで話し合いました。その後、得られた結果とともに発表を行いました。「未来の病気がわかるのはメリットだ」「効きやすい薬がわかると助かる」などの意見や、「個人遺伝情報が知られてしまうのは怖い」「全人類DNA情報データベースがあると犯罪が減るのでは」など、豊かな発想で話し合いが行われていました。
生徒の感想
『教科書だけで見ていた電気泳動を実際に自分でやってみることで、マイクロピペットや染色液を脱色することの難しさを身をもって経験することができた。また、本当に移動するかもわからなかったけど、ちゃんと移動したし、犯人も特定できて、生物についての知識がより深まった。やっぱり、生物が大好きだと改めて自覚できた。』
『学校ではこのような1日かけての大規模な実験はできないのですごくいい経験になりました。前回は解剖であまり授業では詳しく習わないことだったけど、今回は習ったばかりのことや基礎で習ったことがたくさんあって、いい復習と予習になりました。これからDNAについてもっと詳しく習うと思うので、その時は今日のことを思い出して理解を深めたいです。』
令和7年度の「わくわく!アドバンス実験講座」は、この第2回をもちまして全日程を終えました。
令和8年度は、年間2回実施する予定です。ぜひご参加ください。